みなさんこんにちは.
M.Y. trainingです.
いきなりですが,トレーニングを考えるの難しくないですか?
スポーツ競技を指導するときにその場でいきなり「このトレーニングやってみようか」ってできる人はいないと思います.
(めちゃめちゃセンスがある人はできるのか?)
僕はできません.
ある程度は事前にトレーニングを考えてトレーニングに臨むと思います.
でも,トレーニングを考えるって結構難しくないですか?
このトレーニングもやりたいこのトレーニングもやりたい.でもこれは試合に繋がるのかな?
あれ,そもそも試合がどうなってるか理解してたっけ?
今回はスポーツの試合がどうなっているのか.つまり,その競技の試合で発揮されるパフォーマンスをどうやって捉えるのかを説明します.
キーワードは「パフォーマンス構造」です.
要素還元主義
要素還元主義という言葉は聞いたことはありますか??
ある物事において成立する基本法則や基本概念が,「下位の法則と概念で表すことができる」という考え方です.
「どんなに複雑なモノでも,それを構成する要素に分解し,1つ1つの要素を理解すれば,元の複雑なモノ全体の性質や特徴をすべて理解できるはずだ」ということです.
スポーツに置き換えて考えると,
試合で発揮されるパフォーマンス(以下,パフォーマンス)はとても複雑だけど,パフォーマンスの構成要素を分解し,それぞれを分析することで,原因と結果が明らかになる.明らかになった要素を合計することでパフォーマンス全体を理解することができる」
つまり,「全体は部分の総和である」
ということになります.
なんだか違和感感じません?
でも,これまでのトレーニング理論は,このような要素還元主義的科学の考え方に基づいていました.
体力やトレーニングの研究は,運動の一面的,部分的,定量的に課題を抽出して分析してきました.そのため,運動の技術・戦術・心理的な側面は無視されることが多かったのです.
でも,試合のパフォーマンスにおいてこれらの要素は非常に大きな意味を持つことが多いですよね.
0-1で負けている時の残り5分と,2-1で勝っているけど押し込まれ続けている時の残り5分は大きく違います.
これまでのトレーニング科学では,多くの場合,理論とトレーニング現場に深い溝がありました.
トレーニング現場で求められているのは形式的でよくわからない横文字ではなく,目標とすべきパフォーマンスそのものですよね.
選手のパフォーマンスを観て,
その問題の解決策になるトレーニングを導き出す
ことが求められています.
つまり,
スポーツのパフォーマンスはすべての要素が複雑に関係していて,分割できない
「全体性」
を持ったものとして理解しなければならないということです.
パフォーマンス構造
この全体性を持ったパフォーマンスをどう捉えるか.
構造として捉えましょう.
「パフォーマンス構造」です.
球技のパフォーマンス構造を例に考えていきましょう.
どんなスポーツにも共通していることは,パフォーマンスは年間を通した試合日程(オリンピックベースで考えると4年サイクル),ルール,プレーする環境に影響を受けるということです.
【カレンダー】
年間を通してほぼ毎週試合のあるサッカーと,陸上競技のようにある大会やレースで100%に近いパフォーマンスを発揮しなければならない競技ではパフォーマンスの考え方は異なります.
【ルール】
例えば,バレーボールにおける第5セットの15点先取やチャレンジ制度,サッカーではペナルティエリア内でフリーキックを受けられるようになりました.
このようなルール変更によって戦術そのものの考え方が変わったり,パフォーマンスを考える上での前提が変わってしまったりすることは結構よくあります.
【環境】
プレーするリーグの競技レベル,その国の気候,グラウンド,組織など様々なものがパフォーマンスに影響しています.
リーグや大会に応じた戦略,グラウンド状況に応じた戦術が求められます.
そして,球技のパフォーマンスは,
【チーム戦術】【個人戦術】【基礎的運動能力】
という3つの階層に分けることができます.
【チーム戦術】
シーズンをどのように戦うのかというチーム戦略,それによって決定されるチーム戦術です.
多くの球技では試合の中で攻撃と守備の局面が存在し,場合によっては切り替えという局面も存在します.
攻撃と守備が目まぐるしく入れ替わる種目と野球のように攻撃と守備が別れている種目ではチーム戦術を考える上で違いがあります.
【個人戦術】
主に個人技能の要素です.
ドリブル,パス,キャッチ,バッティングなど,個人としてどのようにプレーするかという要素になります.
チーム戦術に基づき,効果的なプレーや技能の発揮が求められます.
【基礎的運動能力】
そもそも競技特異的なプレーをするために必要な身体の動かし方に関係しています.
スプリント,ジャンプ,方向転換など一般的な運動能力が最も下位に位置づけられています.
このようにパフォーマンス構造を明らかにすることは,
目標とする運動の構造を理解するということです.
つまり,理想的な運動はどのようなものか理解できるということです.
そして,パフォーマンス構造を理解した上でトレーニングを考え,実践することで,試合で発揮されるパフォーマンスが向上することになります.
階層性
ここで重要な原則があります.
パフォーマンス構造を明らかにすることを学びましたが,この構造には
「階層性」があります.
若干,難しい話になります.
ある階層では,その階層内の法則や原理に則っていますが,同時に1つ上の階層の法則や原理にも従っています(二重制御の原理).
レンガ作りと都市計画の例が有名ですが,
最も下位の階層ではレンガの原料があります.
その上にはレンガを作る煉瓦工がいます.
煉瓦工の上には建築家がいて煉瓦工のレンガを使って家を建てます.
建築家の上には都市計画家がいて,建築家の仕事に制限をかけています.
レンガの原料は物理学と化学の法則が支配し,
レンガ作りは技術やアートによって支配されます.
建築家は建築術に従って仕事を行い,
都市計画家は都市計画の基準に従って都市全体をイメージします.
レンガの原料の階層では物理学や化学の法則で十分ですが,建築を考えるときは物理学と化学のみでは明らかに不十分です.
建築術の法則によってレンガの原料やレンガ作りに意味が生まれます.
スポーツにこの原則を当てはめると,この図のようになります.
全体から部分へ
このような階層性があることを踏まえると,スポーツを考えるとき,
考えるスタートはパフォーマンス
だということが分かります.
チーム戦術は,チーム戦略における原理原則に基づいて決定され,個人のプレー原則はチーム戦術に対して効果的かどうかという基準で評価されます.
ネットを漁っていたら面白そうなトレーニングを見つけた!やってみよう!
確かに選手の反応も良かったし,面白いトレーニングができたかもしれません.
でもそれは試合のパフォーマンスに繋がるのでしょうか?
チームが求めているプレースタイルやプレーモデルを達成するために効果的なのでしょうか?
このように,下位の原理をスタート地点にしてパフォーマンスに還元してしまうと,トレーニング過程自体が阻害され,一生懸命トレーニングしたとしても,効果的にパフォーマンス向上につながらないという現象が起きる危険性があります.
最初に考えるべきは,パフォーマンスであり,パフォーマンスありきで,それ以下の構成要素について分析することが必要です.
つまり,「全体から部分へ」という流れで考えていくということです.
まとめ
今回は「パフォーマンス構造」を考えました.
ある枠組みを持ってパフォーマンスを考えることで,頭の中を整理することができると思います.
今回のパフォーマンス構造は1つの例なので,それぞれの競技,チームに応じたパフォーマンス構造を考えてみてください.